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新しい朗読ー2つのステップ

更新日:2025年11月5日


「新しい朗読をやっていてよかった〜」というお言葉をたくさん頂戴して、ほっこりしております。文学作品を読むことが、虚構の作品世界を生きる体験になる──そんな文学体験の現場を皆さまとご一緒できて本当にうれしいです(^^)


さて今日は、新しい朗読の実践ステップをもう一度たどってみましょう。


『新しい朗読ー語り手の体験を生きる読書法』で、まずは、谷川俊太郎さんの『やま』という詩をテキストにして、新しい朗読に取り組みましょう♪と提案しました。


この詩を数回読んで、自分なりに理解できたと思っても、そこでとどまらないのが「朗読者」です。この詩の語り手、つまりお兄さんを、仮に「やまおくん」と呼ぶことにしましょうか。名前をつけると、語り手を“ひとりの生きた存在”として感じやすくなります。


それでは、やまおくんに対する理解を深めて、作品世界(=やまおくんのいる虚構世界)に生きることを目指しましょう♪


やり方は簡単。次のステップ1とステップ2を往復するだけでしたね。



■ステップ1:(言葉を手がかりに)体験ー身体・五感・脳ーを推察する(『新しい朗読ー語り手の体験を生きる読書法』p 34参照)


■ステップ2:(言葉を離れて)推察した体験を自らの身体で試みる(同書p37)



一連目の3行に番号をふっておきますね。↓


①イモウトがないている

②なにがかなしくてなくのか

③きいてもなくだけ



ー①イモウトがないているー


さっそく①から、ステップ1を始めてみましょう。言葉を手がかりにして、やまおくんの身体のありよう、五感・脳のはたらきを推察しますよ。


[身体]やまおくんはイモウトのいる部屋に入って、イモウトの方に身体を向けたのでしょう。

[五感]目から、泣いている彼女の姿が入ってきました。耳から、泣き声が聞こえてきました。

[脳]「イモウトだ」という認知回路と「泣いている」という認知回路がつながって、「イモウトがないている」という認識となり、認識とともに「イモウトがないている」という言葉が生まれたと考えられますね。


想像力を使うと、部屋もイモウトも脳内に創造することができます。やってみましょう。最初は、なんとなく部屋やイモウトを感じられたら、それでじゅうぶん。ここで再度、想像力で創造した世界と、「イモウトがないている」という言葉がズレていないことを確認しておくことも大事です。


では次に、ステップ2に進みましょう。(ここでは便宜的に、左脳は言語/右脳はイメージを扱うものとして話を進めます)

左脳(=言語脳)を初期化するつもりで、言葉のない状態にします。そのうえで、右脳(=イメージ脳)が創造した作品世界を、自ら体験してみるのでしたね。


あなたはイモウトのいる部屋に入って、イモウトの方に身体を向けました。目から、泣いている彼女の姿が入ってきました。耳から、泣き声が聞こえてきました。あなたから言葉は生まれますか?


たとえば、言葉が生まれるより先に、身体が動いてイモウトに近づきませんでしたか?

たとえば、「なぜないてるの?」という言葉が生まれてきませんでしたか?


朗読の出発点は、語り手と自分との違いの発見です。いまのあなたの体験は、やまおくんの体験とは違うはず。まずは、いまの自分とやまおくんとのズレを理解しましょう。


そのうえで、やまおくんの体験に少しずつ近づいていきましょう。たとえばこんなふうに。↓


やまおくんは、「イモウトがないている」と認識するのだから、部屋に入ってから立ち止まるのかも。私もいったん立ち止まってみよう。


はじめは、なんだかモゾモゾするかもしれませんね。それは、いつものあなたの行動ではないから。モゾモゾするのが正解です。そのモゾモゾこそ、あなたが語り手に近づき始めた証拠!


何度も、何度でも、やまおくんと同じ体験(身体・五感・脳を同じように使う)を試みましょう。その都度、自分の中にどのような感情や感覚が生まれるのか…その変化も観察しながら繰り返します。だんだん馴染んできますよ。立ち止まって、「あ、イモウトがないているな」とあなたが認識するのです。やがて自然に、「イモウトがないている」という認識の言葉が生まれるようになります。


面白いですね。やまおくんという他者の体験が、時間をかけて何度も繰り返すうちに、自分自身の体験になるのです。


覚えた言葉を、声に出して、「イモウトがないている」と言うのではありません。そこはしっかりと承知してくださいね。スラスラ言葉が出てくるときは要注意ですよ!


やまおくんと同じ場に立ち、同じ刺激を得たときに、やまおくんと同じように脳がはたらいて、自分から自然に言葉が生まれてくる不思議を体感しましょう。



ー②なにがかなしくてなくのかー


②もステップ1から始めます。言葉を手がかりにして、やまおくんの身体のありよう、五感・脳のはたらきを推察しましょう。


身体のありようと五感のはたらきは、①と同じでしょうか?脳のはたらきはどうでしょう?①は認知・認識の言葉でしたが、今度は思考の言葉のようですね(←p87の例を見てください)。


では、やまおくんの脳内を推察しましょう。(悲しいんだな、それで泣いているんだな)という認知・認識のうえで「なにがかなしくてなくのか」という思考の言葉が生まれたと考えられそうですね。


(悲しいんだな)という認知に至るには、イモウトの表情を観察するような目や耳の使い方をする必要があるとわかります。ひょっとすると、①のときよりも、イモウトに近づいたかもしれない。顔を覗き込んだのかもしれない。そんなこともわかってきますね。


やまおくんの身体のありよう、五感と脳の使い方を理解できた気になったら、ステップ2です。あなたの身体と五感を、やまおくんと同じように使ってみると、どのような言葉が生まれるでしょうか?


「かなしいんだな」という認知の言葉なのか、「かなしくてなくんだな」という認識の言葉なのか、ひょっとしたら思考の言葉として、「なにがかなしくてなくんだろう」という言葉が生まれるかもしれませんね。


やまおくんから生まれるのは、思考の言葉でしたね。「なにがかなしくてなくんだろう」に似ています。では、「なにがかなしくてなくのか」という言葉が生まれる体験とのちがいはなんなのかを考えてみましょう。


頭で考えてわからないときは、身体を使ってみるのでしたね。その言葉は、思考をループさせる体験につながるのか?それとも、思考を手放す体験に進むのか?


「なにがかなしくてなくのか」という思考のほうが、尋ねるという行動に移りやすそうです。そう感じませんか?


②と③の間には、「どうしたの?」「なにかあったの?」「なにがかなしいの?」などのイモウトに向けた発話が省略されていることも、だんだんわかってくるのではないでしょうか。


さあ、何度でも体験しましょう。ステップ2は繰り返すことが肝要でしたね。やまおくんと同じ場に身体を置いて、やまおくんと同じようにイモウトの様子を観察して、同じように脳を使って思考して、「なにがかなしくてなくのか」という言葉が生まれる体験を重ねます。


面白がりながら、言葉が自然に生まれてくるまで繰り返してみてください。



ー③きいてもなくだけー


いよいよというか、ようやくというか、③に進みましょうね。もちろんステップ1から始めます。やまおくんの身体・五感・脳を推察しますよ。②のときと同じような身体・五感でしょうか。脳は、「きいてもなくだけ」と認知・認識してこの言葉が生まれたのでしょう。


なにがかなしくてなくのかという、なく理由を「きく」という行動を起こしたけれど、返事はなく、イモウトは相変わらず「なくだけ」なのだなと、作品世界の様子が見えてきますね。


ではステップ2に進みましょうか。

なく理由を「きく」という行動を起こした。けれど、返事はない。イモウトは相変わらずないている。そんな状態を体験すると、あなたからは、どんな言葉が生まれますか?


「きいたのにこたえない」「きいたのにないている」「なぜこたえないんだろう」等々、いろいろな言葉が生まれることでしょう。あなたの体験にぴったりの言葉はどれなのかを、まず、理解しましょう。


自分の体験と語り手の体験は違います。ですから、自分の体験にぴったりの言葉は、語り手の言葉ではあり得ません。そこがスタート。違うからこそ、近づいていく・寄せていくことができます。そして、それこそが、自分の成長ですよ。


私はこんなふうに認知しないけど、やまおくんは認知するのだから、私も同じように脳をはたらかせてみよう。泣き続けるイモウトを見て、「きいてもなくだけ」と認知するんだな。


うーん、なんかモゾモゾするぞ。「きいたのに」じゃないんだものな…。あ、「きいたのに」だと、「こたえない。なんでだよ」みたいな脳のはたらき方になるよな。やまおくんの認知の仕方ってクールだよな。


じゃ、クールさを意識してもう一度やってみよう。「きいてもなくだけ」。さっきより、やまおくんに近づけた気がするな。もう一度。


こんなふうに、やまおくんの認知(脳のはたらき)にだんだん違和感がなくなってくるのを面白がって、何度も、何度でも、繰り返しましょう。


☆。。…。☆☆。。。……。…。☆。…。


語り手の体験を推察し(←ステップ1)、同じ体験を試みる(←ステップ2)ことで、私たちは、語り手のいる虚構世界を生きることができるかもしれません。


ぜひワクワクしながら、それぞれの段階に取り組んでみてください。そうすればきっと、言葉が生まれる不思議さや、語り手に接近する悦びを体感できるはずです♪




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