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文学作品の幸せな受け取り方:「朗読」という読書法の提案②(入門テキスト)

  • 3月8日
  • 読了時間: 8分

更新日:23 時間前


前回のブログで、朗読は、上演領域に属する表現行為とは異なり、読書領域における「作品世界を自分ごととして生きようとする体験行為」なのだとみてきました。

それでは、「朗読という体験」へと進んでいきます。



 ■ 朗読の定義


サロンドマリコでは、朗読を、「(文学作品の)語り手の体験と同じ体験を試みる行為」と定義しています。


語り手の体験と同じ体験を試みる過程で、身体の一つの反応として、声は自然に出ます。その声は、意識して整えた声とは、そもそも生成のありようが異なります。



■ 朗読は読書法である


 サロンドマリコは、仮説と検証を繰り返し、少しずつ語り手に近づいていく読書法として、朗読を捉えています。


 ・仮説を立てる段階では、左脳(言語脳)と右脳(イメージ脳)の間で、情報のやり取りが密になります。

・検証の段階では、左脳に取り込んだ「言葉」をいったん手放し、その時点で立ち上がっている虚構世界を、身体・五感・脳を使って新鮮に体験します。

(注)左脳・右脳は、情報処理の傾向を示すために便宜的に用いています


 仮説と検証の往還を仲間とともに愉しんでいるうちに、語り手との距離は徐々に縮まり、自分ごととして作品世界を歩けるようになります。




☆[サロンドマリコの朗読メソッド]☆


 □ はじめに


最初は、詩や児童文学など、短いけれど奥深い作品をテキストにするのがよいと思います。

サロンドマリコでは、1年目に谷川俊太郎さんや茨木のり子さんの詩、2年目に山下明生さんやあまんきみこさんの児童文学、3年目に漱石や芥川の短編小説に取り組みます。ここまでくる間に、どのような作品であっても豊かに愉しめるようになっています。朗読という読書法は、文学作品を深く味わう力を育んでくれるのです。



□ 準備①:一通り最後まで読む


ひとまず最後まで読みましょう。左脳(言語脳)メインで情報を処理しながら、あらすじをつかんでいく感じです。



 □ 準備②:右脳でイメージする


あらすじがつかめたら、今度は、右脳(イメージ脳)にさらに活躍してもらいましょう。


 読む速度を落としたり、立ち止まったりして、虚構世界をイメージしながらゆっくり読んでみます。声は出しても出さなくても、どちらでもいいですよ。 声に出すとイメージしやすくなる言葉もありますね。


語り手の言葉が、あなたの「強い感情を伴う記憶」にコミットすることで、あなた独自のイメージが生まれることもあるでしょう。


 ⚫︎ 何か見えてきましたか?色?形?景色?それとも…

 ⚫︎ 何か聞こえていますか?心地よい響き?騒音?それとも…

⚫︎ においを感じますか?どんな?


等々、ゆっくりと時間をかけて、脳内に虚構世界を立ち上げるつもりで進めましょう。


 「いつもの黙読と同じだ」と思いましたか?「えっ、2回も読むの?」と思いましたか? 読むといっても人それぞれです。作品にも、時と場合にもよりますよね。


黙読だとここがゴールかもしれません。しかし朗読では、ここまでが準備段階です。準備が整ったところで、さあ、始めていきましょう。



■ 仮説を立てる①:語り手の体験を推察し、脳内に虚構世界を立ち上げる


虚構世界を立ち上げる「語り手の言葉」は、「語り手の認知そのもの」と考えられます。(認知と切り離され、後から整えられたものではありません)


語り手の認知をそのまま記述したものが文学作品であり、読者はその「認知の言葉」によって「語り手の認知」に触れることができます。こうした捉え方から、朗読はスタートします。


認知というのは、知覚・身体のありようと強く結びついています。


だからこそ、私たちは、句読点や改行等で区切られた「一つひとつの語り」と直結する「脳(認知)・五感(知覚)・身体のありよう」に近づくことが可能になるのです。


⚫︎ この認知は、どんな知覚と同時に生まれたのだろう?

・〇〇を見たのだろうな

・〇〇が聞こえているのかな

・〇〇を感じているのかな…etc


⚫︎ その知覚は、どんな身体と直結しているんだろう?

・〇〇にいるのだろうな

・前のめりになっているかも

・位置をこう変えたのかな…etc


このように、語り手が見ているもの・聞いている音等々の仮説を立てながら、語り手の置かれている状況をイメージしていきましょう。


私たちは往々にして、語り手が見ているものではなく、自分が見たいものを見ています。

この段階でそれに気づくと、最初にイメージした虚構世界の風景が様変わりするかもしれませんね。もちろん、そのままのこともあるでしょう。


正解を急ぐことなく、面白がりながら、のんびり進めましょう。



■ 仮説を立てる②:虚構世界を、現実世界に二重映しのように立ち上げる


脳内にイメージした虚構世界を、現実世界にぼんやり映し出してみましょう。二重映しに見るような感覚です。


もちろんはっきり見えなくて大丈夫。見ようとする、感じようとする、それでじゅうぶんです。 「あ、なんとなく見える気がする」と思えたら、その感覚こそが宝物です。


 (現実世界に二重映しとなった)虚構世界の中心に、「自分の身体」があります。次に行う「仮説の検証」では、この身体を使います。



■ 仮説を検証する:虚構世界を自ら体験してみる


仮説をもとにイメージし、眼前の現実世界に二重映しのように立ち上げた虚構世界の中心に、あらためて「自分自身の身体」を感じましょう。


落ち着いて、ゆっくりと味わうように進められるといいですね。


⚫︎ あなたの「その身体」は、何をどう知覚しますか? (あなたの五感はどう働きますか?)


⚫︎ 「その知覚」と同時に生まれる「あなたの認知」はどのようなものでしょうか?


「私の認知はどんなふうだろう…」と考えて、つくるものではありませんよ。知覚した途端にふっと浮かぶのが認知です。


認知したままの言葉が、身体から「こぼれ出る感覚」をたのしみましょう。まるで独り言が自然に出てくるような感覚です。声量はごく小さくても普段通りでも大丈夫。身体の反応ですから、身体に任せましょう。


 語り手と酷似した認知ならば(かなり稀なことだと思いますが)、語り手と同じ言葉が生まれるのかもしれませんね。


でも、ひょっとしたら… 自分の認知を無視して、本当は語り手とはずいぶん違う認知なのに、(言葉を覚えてしまったせいで)語り手と同じ言葉を発しているのかもしれません。


そんな可能性も視野に入れて、自分の身体を丁寧にみてあげましょう。


感覚や感情に違和感はありませんか?感覚も、感情も、自然に湧いてくるものです。「こんなふうかな」と想像したり、「きっとこうだ」と考え出したりするものではありません。


言葉が出てこなかったり、違う言葉が生まれたりするのは、当たり前に起こること。そのときは、あらためて仮説に立ち返ればいい。一気に進まないからこそ、語り手に対する理解が深まります。

朗読では、試行錯誤の一つひとつが、かけがえのないプロセスなのです。



■ 仮説と検証の反復


2回目、3回目…と軽やかに回を重ねると、より具体的な虚構世界のイメージが、鮮明に立ち上がるようになってきます。

仮説が洗練されていきます。

それに呼応するように、「目」や「身体」の使い方は繊細になり、自分とは異なる(語り手特有の)認知が、腑に落ちるようになってきます。


慣れないうちは、サロンドマリコがそっと伴走します。安心して試行錯誤にトライしましょう。


語り手との距離が縮まると、言葉では掬いきれない、語り手ならではの認知が、しみじみと実感できるようになります。


その認知を試みようと、使い慣れた回路とは異なる回路を使ってみると、最初、身体がモゾモゾします。これは自然な現象です。


何度も繰り返していると、だんだん慣れてきます。新しい認知のありようが、やわらかに身体に馴染んでくる感覚です。


のんびり愉しんでいると、やがて語り手と同じ言葉が、違和感なく、自然に生まれるようになります。


脳内に「新しい認知回路」が敷設されつつあることを面白がる。これがコツかもしれません。



■ 虚構世界の体験を仲間と共有する


世界を認知した身体の反応として、語り手と同じ言葉が生まれるようになったら、その虚構体験を、仲間と共有しましょう。


 朗読の音声は、朗読者の体験(どのように虚構世界を生きているか)と直結しています。だからこそ、その体験を皆で共有する手段となるのです。


虚構体験の共有は、新たな発見や思いがけない気づきにつながることでしょう。言葉を交わすうちに、さらに語り手との距離が縮まりますね。


仲間とともに仮説と検証を重ねる時間そのものが、私たちに優しい悦びを与えてくれます。



(注)この方法は、常にこのスタイルで適用するものではありません。作品の長さや性質に応じて、部分的に取り入れたり、ゆるやかに用いたりすることも大切です。



■ まとめ


大事にしたいのは、虚構世界を「語り手とともに歩く」感覚です。


語り手と同じように見てみる。語り手と同じように聞いてみる。語り手と同じように感じてみる。そのとき湧き上がってくる心情や身体感覚を、きちんと立ち止まって、時間をかけて、じっくりと味わう。


この朗読の取り組みは、私たち大人にも「新しい体験」をプレゼントしてくれます。新しい体験は、脳のありように変化をもたらし、現実世界に戻ったとき、朗読する前の自分とは違う「新しい自分」に出逢えるかもしれません。



ー追記ー


じつは、知覚に伴って、脳内では多くの認知回路が働きます。その中で意識の光が当たった回路が、「認知の言葉」として現れるのでしょう。


ときに認知回路は、意識の光が当たるよりも前に、強い感情や欲求と結びつきます。そして、「思考の言葉」として現れたり、(言葉として現れることなく)直ぐに行動に結びついたりします。


人間の脳の働きはとても豊かです。このあたりは、愉しく朗読を実践しながら、少しずつ解明していきましょう。





※関連ブログ

「文学作品の幸せな受け取り方:『朗読』という読書法の提案①③」



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